やあこんばんは。久方ぶりに気色の悪い夢を見たものだから、文字に起こす事としたよ。
今回は過去記事とは異なりラジオのテキストアーカイブというわけではないから、少々長めになっている。実際、永い夢だった。・・・・・・それでは始めよう。
傀儡薬
こんな夢を見た。
ふと気がつくと見知らぬデパートメントストアに居た。どういう経緯で此処に入ったのかは分からないが、新しい建物特有の建材の匂い、矢鱈に光る床、ぴかぴかと光を反射する綺麗な硝子のショーケース、そういうもの全てに嫌悪感があった。全くと言っていいほど人気がなく、客どころか店員も見当たらない。エスカレーターで二階に上がってみても同じ様子である。
どうにも妙だ、そう思った。
再びエスカレーターに乗り三階へと上がると、辺りの様子が一変した。剥き出しの配管、チェッカー・プレートの冷たい床、高い天井まで迫る鉄製の棚。明らかに店舗ではなく、倉庫といった造りである。おまけに、乗ってきたはずのエスカレーターもすっかりと姿を消している。
どうしたものかと思って立ち尽くしていると、遠くのほうからコツ、コツと云う冷たい足音が聞こえてきた。
誰かいる。思わず屈みこんで姿を隠したが、足音の主は確かに真直に僕へと歩み寄ってきている様だった。
やがて姿形が分かるほどになると、僕の身体は強張った。随分と背丈が高く、痩身で、窪んだ眼に銀縁の眼鏡をかけ、若いくせ真白な髪をした妙な男がにこにことしながら近づいてきているのである。関わり合いになってはいけない、そう思ったが動けない。
屈み込んだままの僕の前にゆっくりとした歩調で辿り着くと、男はそのまま僕の両手首を掴んで組み敷いた。鉄の床に押し付けられた背中はひやりとしたが、掴まれた手首のほうがそれよりもずっと冷たかった。
僕は掠れた喉から声すら出せないことを情け無く思った。そうして、哀れにも蜘蛛の巣にかかり、後はその巣の主に食われる他ない羽虫の気持ちになった。
「良い子だね」
蜘蛛のような男はそう言って、にこにことした顔をさらに笑顔の形に歪めながら「170センチだ」と付け足した。
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ズキズキと脈打つような頭痛がして目が覚めると、先刻とは全く異なる雰囲気の狭苦しい部屋に転がっていた。リノリウムの床、分厚い鉛硝子が嵌め込まれた白い壁。硝子の向こうには蜘蛛男の姿が見てとれた。
あまりの頭痛に視界が歪み、意識が呆とする。手足は鉛のように重く、額の脂汗を拭うこともかなわない。
そんな僕の様子を、蜘蛛男は相変わらずにこにことした顔で眺めている。手にはクリップ・ボードを持ち、時折何か書き込んでいる様だった。
「調子はどうですか」
声は天井の隅に設置されたスピーカーから聞こえてきた。最悪だ、と喘ぐように云うと男はボードにペンを走らせた。恐らく最悪だとでも記したのだろう。
当然の事ながら、僕は今本当に最悪の気分だった。気がつけば知らない場所にいて、気味の悪い男に捕まり、おまけに割れるような頭痛に耐えながら監禁されている。ある程度長い年月を生きたが此れ程までに最悪な日は無かった。
「お前は誰なんだ」と尋ねてみると、
「呼び名が必要なら博士かドクターとでもお呼びなさい」と云う。
「そうではなくて、お前が何者なのか訊いている」
男はにこにこしながら、
「只の傀儡師だよ、君にとってはね」
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気を失ってからどれくらい時間が経ったか判らない。静かな部屋には自分の喘鳴だけがうるさかった。
喉が渇いて呼吸が苦しく、渦巻くような眩暈がする。このままでは死んでしまうと思った矢先、頭の上から声がした。
「さあ、薬を飲もうね」
蜘蛛男が屈み込んで僕の顔を覗いた。片手にはグラスに入った水、もう片方の手にはよくわからない錠剤を二つ乗せている。大豆ほどの大きさで緑色をした歪な形のそれはどう見ても鎮痛剤などでは無かった。
「厭だ」と辛うじて呟き顔を逸らす。「出て行ってくれ」
男は首を静かに横に振りながら、
「死んでしまうじゃないか」と云う。
そうして、片腕で強引に僕を引き起こすや否や錠剤を口に捩じ込むと、吐き出させまいと掌で口を覆ってすぐさまグラスの水を流し込む。僕は溺れるようにしてその薬を飲み込んでしまった。
そうすると呼吸は楽になり眩暈も無くなったが、再び激しい頭痛がして四肢に力が入らなくなった。
男はだらりと手足の垂れた僕を抱えて椅子に座らせると、「調子はどうですか」と尋ねた。最悪だ、と答えたかったがどうにも上手く喋ることができない。仕方なく、
「いたい」とだけつぶやいた。
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そうしてまた時間がたくさん過ぎたと思う。
僕は座ったまま、頭と手と足が痛いのをたえていた。くもの博士は窓の向こうから時折こちらを見て、にこにこと笑っている。
そうしていると息をするのが苦しくなってきて、目の前がちかちかとする。くもの博士がやってきて、僕に薬を飲ませる。調子はどうですか、という。僕はわからないと答えた。
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あたまがいたくなくなって、手と足はうごかせなくなった、はかせは僕をいすにすわらせたり、にこにこしたりする、 ときどきとてもあまいあめをくれる それだけの生活で、もう苦しいことはなんにもなくなった
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はかせ
ぼくは きみのかいらい
いいこでいます
はかせ
ありがとう
だいすき
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目を覚ますことができて良かった。
今回のアイキャッチイラスト

夢の中に現れた蜘蛛男を身内(@KR_KRR6)が描いたものが今回のアイキャッチイラスト。夢に見たものを現実に写すのはあまりよろしくない気がするのだが、まあ文字にしている時点で手遅れなのかもしれないな。
それじゃ終わり。
またどこかでお会いしましょう。